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病院広報誌

緑のひろば

2015年12月号

非結核性抗酸菌症について

呼吸器内科部長 高見 和孝

はじめに

非結核性抗酸菌による感染症が、世界的に増加しています。
結核菌の仲間を、抗酸菌(こうさんきん)と呼びますが、結核菌、ライ菌以外の抗酸菌による感染症が非結核性抗酸菌症です。
結核菌との最も大きな違いは、人から人へは感染しないということです。結核菌は人への感染力が強く、痰から菌が検出された場合、結核病棟への入院が必要となりますが、非結核性抗酸菌は人から人へは感染しないため、一般の外来、病棟で治療を行うことが可能です。非結核性抗酸菌は土壌、水、給水システム、家畜の体内など広く環境中に生息する菌です。菌を含む水分や埃の吸入により感染すると推測されていますが、詳細は未だ不明です。現在150種類以上の菌種が発見されており、日本でも20種類以上の菌種で感染症の報告があります。
Mycobacterium avium complex(MAC)による肺MAC症(肺マック症)が非結核性抗酸菌症全体の約80%、次いでMycobacterium kansasii(カンサシ)が約10%を占めます。以前は、陳旧性肺結核症など肺に病気を持つ人に多くみられていましたが、近年、肺に病気のない、免疫力の正常な人の肺MAC症が、特に中高年女性を中心に急増しています。日本の非結核性抗酸菌症の罹患率は、人口10万対0.82(1971年)から急増し、現在、人口10万対6以上と推定されており、これは欧米と比べきわめて高い水準です。

以下は、肺MAC症についてのお話です。

症状

初期には自覚症状がなく、検診や人間ドックの胸部X線検査やCT検査で偶然発見されることも少なくありません。
症状として多いのは、他の呼吸器感染症と同様、咳、痰です。血痰を認めることが多いのが本症の特徴です。進行すると、発熱、倦怠感、体重減少などが現れます。一般的に症状はゆっくりと進行します。

診断

自覚症状がなくても、胸部X線、CTなどの画像検査により、肺MAC症に特徴的な画像所見が認められます。
肺MAC症を疑う陰影が認められ、痰などの検体からMAC菌が検出されれば、肺MAC症と診断されます。
ただしMAC菌は環境にいる菌ですので、1回検出されるだけでは不十分で、最低2回は、菌の検出が必要です。菌の同定は、PCR法やDDH法などの遺伝子診断により、迅速に行われます。
痰がでない患者さんには、気管支鏡検査を行なうこともあります。

治療

結核とは異なり、治癒を期待できる治療法は確立しておりません。
結核と似た菌のため、抗結核薬を含めた複数の薬(クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールなど)を用いた長期間(年単位)の治療が行われますが、開始時期、治療期間など定まった基準がなく、また治療終了後、しばしば再増悪が認められます。
10年以上の経過でゆっくりと進行していくことの多い病気ですが、治療を行わなくても、自然軽快する患者さん、何年も変化のない患者さんもいらっしゃいます。肺の陰影が広範な場合、以前に比べて肺の陰影が明らかに増悪している場合、空洞がある場合、血痰などの自覚症状が強い場合などは、一般的に治療が必要と考えられますが、治療の開始には、患者さんの年齢、その他の合併症、薬の副作用などを考慮し、総合的に判断することが大切です。
高齢者は、薬の副作用を考慮し、経過観察をする場合もあります。根治的な内科治療がないため、年齢が若く、病変が限局している場合には、外科手術も選択されます。

最後に

肺MAC症は、完全に治すことの難しい、経過の長い病気です。
自覚症状がないまま増悪する場合もあります。通院を継続し、根気よく病気とつきあうことが大切です。


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