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病気のはなし

何針縫いました?

形成外科 丹生 淳史
(緑のひろば 2010年2月号掲載)


形成外科とは、主に体表の奇形・変形、外傷、腫瘍、潰瘍などの疾患を担当する科です。単に病気やケガを治すだけでなく、後天的に出来たひきつりや変形などを治すことも担当しています。特に顔の縫合などで医師が腕を発揮する機会が多くなりますが、担当する領域は頭のてっぺんから足のつま先にまで及びます。手術やケガなどでは様々な場所を縫う機会が数多くあります。そんな時によく聞かれる形成外科医にはとても苦手で答えづらい質問があります。「何針縫いました?」という質問です。でも意外に思われるかもしれませんが、何針縫ったかを数えている外科医はきっといないと思います。特に形成外科では、縫う数も多く何針縫ったか正直なところ判りません。「え、何針?えーと、何針だったかな。20針くらいかな、いや30針くらいだったかな?」などと適当に答えてしまうこともあります。もちろん細い針で縫えば縫う数も多くなりますが、何針縫ったかという事自体はあまり重要なことではないのです。傷の状態や縫う部位によっても縫う糸の太さも縫い方も変わるため、何針ということが傷の大きさや重症度の絶対的な基準にはならないのです。
かつて糸の種類も少なく、縫合法も発達していない頃には、どこを縫うにもおそらく1cmにつき1針くらいで縫われていた時期があったかもしれません。20針縫ったとすれば大体20p位の傷となり、大ケガあるいは大手術だったのだと皆が納得できたのでしょう。だから今でもその名残か世の中では手術をしたと聞けば、皆さん反射的に何針縫ったのかと聞きたくなるようです。家族や知人からも聞かれることが多いようですし、時には警察などの公的機関からさえ尋ねられることがあるようです。しかし、現在の医療は随分と進歩しました。糸の種類など一体幾らあるのか分らないほど多く存在しますし、太さの規格だけでも、ほとんど肉眼では見えない位に細い糸(血管やリンパ管を縫います)からヒモのように太い糸まで20段階近くあります。糸の材質の種類などを加えれば、100種類を超えるかもしれません(数えたことはありませんが)。縫い方もずいぶんと変わりました。自然と吸収される糸を用いて皮膚の下を縫うことも珍しくありません。このような糸は外からは見えませんし、抜糸の必要もありません。何針縫ったかということはすでにあまり意味がなくなっているのです。どの糸を使ってどのように縫うかについても、形成外科では傷の状態や傷の場所の他、時には年齢や性別、またご本人の希望などを考慮して、総合的に決めます。逆に言えば、同じ大きさの傷でも何針にだって縫えてしまうのです。同じ5pの傷でも、顔の目立つ部位では20針以上縫うこともあれば、お腹や足などでは5針くらいしか縫わないこともあるわけです。極端な例では顕微鏡手術などでは、直径1oの血管に6〜8針も縫ってしまうこともあります。また皮膚では医療用のホッチキスや接着剤を使用する例もありますし、さらには皮膚表面をまったく縫わないようにすることさえ可能です。様々な状況に応じて縫い方や糸の種類を使い分けているのです。必ずしも傷の大きさや重症度とは関係がないのです。そんなわけでもし傷の程度を知りたいときには、「何cmくらい縫いましたか?傷の深さはどの程度でしたか?」と是非聞いていただければ正しくお答えできると思います。


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