<持続する>咳のお話
呼吸器内科 吉川 理子
(緑のひろば 2009年2月号掲載)
はじめに
咳は人種や年齢や国を問わず、誰もが経験する症状です。対症療法で自然に治る風邪(感冒)から、症状が重い心疾患、肺癌(咳が出る頃には進行している事も多い)、肺結核など、いろいろな原因が考えられます。ここでは受診のタイミング・ポイントについて頻度の高い病気を中心に紹介します。
1.急性咳嗽:
通常、発症後2〜3週間以内の咳のことを言います。原因としては、鼻〜のどの症状を主体としたウイルス感染によるかぜ症候群の頻度が最も高く、2日以上の発熱(37℃以上)がない場合、大抵は治療しなくても自然に治癒します。したがって、1日以内の微熱または熱がなく咳症状のみの場合は、基本的には2週間くらいは経過観察してよいことになります。咳以外に注意すべきは以下の通りです。
@発熱が続く場合
特に38℃以上の高熱をきたす場合、鼻づまり症状があれば副鼻腔炎、咽頭痛があれば咽頭炎・扁桃炎、汚い色の痰を伴えば肺炎の可能性があり、細菌に対する抗生剤が必要です。ノド・鼻症状があれば耳鼻科で鼻やノドの奥を内視鏡で診てもらい、痰を伴えば内科で胸部レントゲン写真を撮ってもらうと良いでしょう。
寒気・頭痛・吐き気・ふしぶしの痛み、といった風邪の症状が通常よりも強い場合、インフルエンザウイルス感染が疑われます。15分程度の簡易検査で90%以上の方を正確に診断できますが、発熱開始後12〜24時間は体内のインフルエンザ抗原量が少なく、本当は感染していても検査では陽性に出ない場合があります。診断が確定すればタミフルという特効薬を服用します。うっ血性心不全・透析をするような腎不全・肝硬変・糖尿病・高度の肺気腫など基礎疾患のある方が同居している場合、その方もタミフルの予防内服の適応があります(投与量は異なる)。
A呼吸困難感を伴う場合
気管支喘息、気胸(肺に穴があいて空気が胸腔内に漏れる)、心不全(不整脈、狭心症、心筋症)、何らかの原因の胸水(細菌、結核、肺癌、心不全・腎不全・肝不全)、肺塞栓(足の静脈で血栓ができ、肺の血管につまる)が考えられます。酸素投与や何らかの処置が必要な場合も多く、すぐに受診しましょう。軽症の場合は、労作時のみ息切れとして感じることもあり、注意が必要です。
2.慢性咳嗽:
2週間以上続く咳が唯一の症状の場合をいいます。世界保健機構(WHO)によると、結核を見逃さないために、まず胸部レントゲン写真を撮ります。結核は決して過去の病気ではなく、今でも老若男女を問わずに多く、人口密度の高い東京は日本の中で最も罹患が多い都市です。人から人へ感染するため、発症すれば隔離、入院が必要となり、経過が長いと肺に後遺症を残しますから、早く発見・治療することが大事です。
レントゲン写真に異常がない場合、次に多いのは、咳喘息(アレルギー、喘息の一番症状が軽い咳のみのタイプ)です。小児喘息の既往や花粉症・アレルギー性鼻炎のある方は、呼吸器内科の受診をお勧めします。今までアレルギーがなくても大人になってアレルギー体質になる方も増えており、原因としては大気汚染やタバコの煙が知られています。タバコを1日20本、20年以上吸っている方は、COPD(肺気腫、慢性気管支炎)といって肺が壊れてしまった症状として咳や痰が持続するようになります。これらは、呼吸機能検査にて吐き出す力を調べます。
他には、副鼻腔気管支症候群(副鼻腔炎+気管支拡張症)、胃食道逆流症など、下記の表のようにさまざまな原因が考えられます。慢性咳の場合は、風邪だと思い込まずに、是非一度、内科(呼吸器内科)を受診してください。
※咳の原因1.感染後咳嗽 2.咳喘息 3.アトピー咳嗽 4.副鼻腔気管支症候群(び漫性気管支拡張症など) 5.亜急性細菌性副鼻腔炎 6.百日咳 7.肺炎クラミジア 8.マイコプラズマ 9.胃食道逆流症 10.心因性・習慣性咳嗽 11.薬剤性 12.慢性気管支炎 13.後鼻漏症候群 14.気管・気管支の腫瘍 15.気管・気管支の結核 16.気道内異物 17.間質性肺炎 18.その他の稀な疾患・原因 (日本呼吸器学会・咳嗽に関するガイドラインより)
※吉川医師は現在は在籍しておりません